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10.11.02.海雲寺(南品川)平蔵地蔵

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写真: 10.11.02.海雲寺(南品川)平蔵地蔵

写真: 10.11.02.海雲寺(南品川)鐘楼 写真: 10.11.02.海雲寺(南品川)

mixiアルバム記事コピペ――
2010年11月22日 22:40
平蔵という正直者のこじきがいた。こじきといっても、平蔵はいつも人さまのお情けをもらって、生きるのが嫌いだった。平蔵が生まれた所は、東北の片田舎、貧しい百姓の家。おっかあと二人で、小作をして暮らしておった。そのおっかあも死に、どうにもならんので、江戸に出てきた。江戸に来ても、まともな仕事はなかった。いつしか、大木戸の近く、車町のこじき宿に住むようになった。
歳の瀬も迫ったある年のこと、その日は久しぶりに仕事があった。鈴ヶ森の刑場で屍を土にうめる仕事だ。一日中、泥まみれになって、働いて六文もらった。
「もうじき、また、正月がやってくるけど、年をとるだけ人並みだ」
平蔵は独り言をいいながら、品川の宿を越え、芝、高輪あたりまできて、一休みしようと、ふとあたりを見まわした。すると、ちょうど腰をかけるのに手ごろな枯れ木が横たわっていた。さて、しゃがみ込もうとすると、枯れ木のそばに何やら包みが落ちているではないか。
「一体、何が入っているのだろう」
手にとった包みはずっしりと重い。平蔵は包みをといて吃驚仰天。包みの中には何と、大判小判がびっしりと入っている。
「ああ、これだけあれば、いやな仕事もしないで暮らせる」
一度はそう思った平蔵、あの忘れもしない雪のふる夜、死ぬ間際に言ったおっかあの声が浮かんで来た。
「平蔵、ここさすわれ。人間一生かかっても、銭こいくらあっても、買えん物があるど。そらな、正直という心だべな」
平蔵は一夜明けて、まだ星のあるうちにこじきの宿を出ると、包みの落ちていた場所に座った。やがて日が昇って、職人衆や旅商人があわただしく通るようになった。すると平蔵の前を、一人の武士が何か探しものでもしている格好で通りかかった。平蔵は立ちあがると、武士に呼びかけた。
「もうし、お武家さま、お金を落とされたのでは」
平蔵の手には、しっかりと大判小判の入った包みがにぎられていた。武士はとびあがらんばかりに驚き、目を喜びいっぱいにして輝かした。
「おぬしがひろわれたか、かたじけない」
武士は、包みの中から、小判を三枚つかむと、
「これを礼にとって欲しい」と差し出した。
ところが平蔵は、首を横にふってなかなか受けとろうとしない。さんざん問答のすえ、ようやく平蔵は小判を一枚だけもらった。平蔵はその足で食べ物と酒を買い、こじき宿にもどると、仲間達にふるまい、今までの出来事を話した。
酒の酔いがまわるにしたがい、仲間たちは平蔵をののしりはじめた。
「一生のうち、一度だっておがめねえ大金を、おめおめと落とし主に渡すとは、何たる馬鹿もんだ」
「そうだ、そうだ、放り出しちまえ」
その夜のうちに宿から放り出された平蔵。あわれ、翌朝には品川の海岸で水死体となって発見された。
平蔵の屍は品川の海雲寺にねんごろに葬られた。
お墓と並んで、地蔵が祀られ、今でも香華が絶えない。

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